「問題が解決する3つの視点」

 

        福地茂雄(アサヒビール相談役)  『致知』2012年2月号   特集「一途一心」より

 

 結局人間というのは、生きている間はストレスから逃れられない。だったら、いかにストレスを持ち越さないかが大事になってきます。考えてみれば、四十年前のあの問題が未解決だとか、三十五年前のあの問題が未解決だっていうのは滅多にないんです。いつか片付いている。

人間が起こした問題というのは、何らかの形で必ず解決する、破れない壁はないんです。だから私は自分の机の上に、

「いますぐには解決できない。一人では解決できない。いままで通りでは解決できない」

と書いた紙を貼って、たとえ難しい問題に直面しても、必ず解決するはずだと信じて取り組んできました。そう思っているとストレスも持ち越さなくなるんです。

 

 

 「成功さえも“試練”である」 

   稲盛和夫(京セラ名誉会長) 『致知』2003年4月号 連載「巻頭の言葉」より

 

 私は、「試練」とは、一般的にいわれる苦難のことだけを指すのではないと考えています。

 人間にとって、成功さえも試練なのです。例えば、仕事で大成功を収め、地位や名声、財産を獲得したとします。人はそれを見て、「なんと素晴らしい人生だろう」とうらやむことでしょう。

 ところが実は、それさえも天が与えた厳しい「試練」なのです。成功した結果、地位に驕り、名声に酔い、財に溺れ、努力を怠るようになっていくのか、それとも成功を糧に、さらに気高い目標を掲げ、謙虚に努力を重ねていくのかによって、その後の人生は、天と地ほどに変わってしまうのです。

 つまり、天は成功という「試練」を人に与えることによって、その人を試しているのです。いわば人生は、大小様々な苦難や成功の連続であり、そのいずれもが「試練」なのです。そして、私たちの人生は、その人生で織りなす「試練」を、どのように受け止めるかによって大きく変貌していくのです。私たちは、苦難あるいは僥倖、そのいずれの「試練」に遭遇しても、決して自らを見失わないようにしなければなりません。

 つまり、苦難に対しては真正面から立ち向かい、さらに精進を積む。また成功に対しては謙虚にして驕らず、さらに真摯に努力を重ねる。そのように日々たゆまぬ研鑽に励むことによってのみ、人間は大きく成長していくことができるのです。

 私は、現代の混迷した社会を思うとき、私たち一人ひとりが、どのような環境に置かれようとも、自らを磨き、人格を高めようとひたむきに努力し続けることが、一見迂遠に思えても、結局は社会をよりよいものにしていくと信じています。

■稲盛和夫氏から『致知』へのメッセージ

 昨今、日本企業の行動が世界に及ぼす影響というものが、従来とちがって格段に大きくなってきました。日本の経営者の責任が、今日では地球大に大きくなっているのです。このような環境のなかで正しい判断をしていくには、経営者自身の心を磨き、精神を高めるよう努力する以外に道はありません。人生の成功不成功のみならず、経営の成功不成功を決めるものも人の心です。

 私は、京セラ創業直後から人の心が経営を決めることに気づき、それ以来、心をベースとした経営を実行してきました。経営者の日々の判断が企業の性格を決定していきますし、経営者の判断が社員の心の動きを方向づけ、社員の心の集合が会社の雰囲気、社風を決めていきます。

 このように過去の経営判断が積み重なって、現在の会社の状態ができあがっていくのです。そして、経営判断の最後のより所になるのは経営者自身の心であることは、経営者なら皆痛切に感じていることです。

 我が国に有力な経営誌は数々ありますが、その中でも、人の心に焦点をあてた編集方針を貫いておられる『致知』は際だっています。日本経済の発展、時代の変化と共に、『致知』の存在はますます重要になるでしょう。